「変わらない事、変わった事」


変わらない事。私が起きる時間。
セットした目覚ましを止め、ベッドの上で体を緩やかに伸ばす。
閉じた翼と丸めた尻尾をゆっくりと広げて心地良さを味わい、静かにカーテンを引く。
目に映るのは眠る町並み。佇む家々を、ゆっくりと朝日が照らして行く。
私はこの景色が好き。眺めながら聞く鳥達の囀りも。
(勿論、フィオの歌声の方がもっともっと好きだけれど)
入学してからの私の日課。こうして穏やかな朝を過ごす事。
フィオと話したり、食堂で朝食を取ったり、身嗜みを整えたり……。
そういった時間の前の、ほんの一休み。大切な時間。

変わった事。朝の過ごし方。
今日も私は窓の外を眺め、鳥の囀りに耳を傾ける。けれど、変化が一つ。
(あの人はもう起きているでしょうか?)
そういう事をよく考える。


朝焼けに輝く空を見た時。
ゆっくりと明るくなっていく通学路を眺める時。
眠気を堪えながらお気に入りの本を読み返す時。
隣にあなたが居たら……と想像してしまう。
朝、一人きりで過ごす時間は変わらず輝いている。
けれど、私の心は変わってしまった。
その変化に戸惑う事もあったけれど……今は……。



変わらない事。毎日の楽しさ。
学園生活にも慣れてきた。苦手な科目や、退屈な時間も結構ある。
けど、それでも学園生活は楽しい!
自治区ではあまり話せなかった他の亜人達と一緒に過ごすのは刺激的。
寮でも一緒だから、沢山遊んで仲良くなれる。
新しい事を覚えるのも面白い。特に、得意な数学の授業とか。
まるでパズルで遊んでいるみたい。
(エミリアにそう言ったら、羨ましそうにしてたっけ)
この楽しさ、ずっと続けばいいのになって思う。
だから、きっとこれは変わらない事。
ずっとずっと続いて欲しいって思う。三年間だけじゃ勿体無い!

変わった事。楽しいだけじゃなくて、ドキドキするようになった事。
ドキドキだけなら今までもあった。テスト前とか、レア先生との面談とか。
でも、楽しくてドキドキするのは初めてで……。
授業中でも、休み時間でも、お昼を食べている時でさえ。
君が目の前に居ると、どうしてもそうなってしまう。


出会ったばっかりは、全然そんな事なかったのに。
変わった事。変わっていく事。変わってしまった事。
でも、その先に君が居るんだったら……私は安心して変わって行こうと思う。
みんなとの学園生活が終わっても、絶対に離れたくないから。



変わらない事。あなたと過ごす時間。
私と、フィオと、あなた。
転校してきた日から、こうして一緒に過ごしている。
唯一親しくなれたクラスメイトだから……というのも一つの理由。
けれど、それだけではない。私も、フィオもきっと。
その事を大切にしたい。
変わらない事は、きっと素晴らしい事だから。

変わった事。君との距離。
私達三人はとっても仲良し!
でも、最近ちょっと困る。仲が悪いとかじゃなくて、むしろその逆。
例えば勉強を教えあっている時。
ちらりと見える君の素肌に、私の心がグチャグチャになる。
……私、そんなにエッチだったっけ?
でも、エミリアもそうみたい。私と同じ場所を見て、私と同じ反応をしてる。
そういう時、私の中に不思議な感情が湧き上がる。
これって、嬉しいのかな?それとも困ってるのかな?
何もかもわからない。私は変わっていく。
けど、きっと大丈夫。
変わっていく事は、きっと大切な事だから。